昨今、小売業界も急速なDX化が進んでいることにより店舗を持たずに販売を行う業者も増えてきた。ネットショッピングの普及は以前より進んでいたが、2020年のパンデミック以降、より顕著にオンラインでの需要が増えた。より簡単に商品が手に入るようになり、直接お店に足を運ぶことが少なくなった。そして、参入障壁の低くなったことにより小売業者が増え、たくさんのモノが溢れている世の中となった。同じ商品が違うお店で売っているなんて光景は今や当たり前のことだろう。

しかし、街中には空きテナントがちらほらと見られる一方で都心部の一角では続々と店舗がオープンしている。だが、店舗がオープンするものの5年前に想像していた店舗像とは少し異なる。デジタル社会となりネットショッピングが普及したことで、店頭の役割が「商品の受け渡しの場」と「ショールーム」に二極化する傾向が生じ始めたのだ。店舗には販売スタッフが常駐し、気になる商品の接客を受け、購入するという従来の店舗の役割から変わったのだ。接客が不要、需要が無いと言い切っているようにさえ感じざるを得ないが、果たしてそう言い切れるだろうか。そんなにも簡単に時代のトレンドを切り抜いた世相から、店舗から「接客」というものを省いて考えていいものなのだろうか。

今回はあらためて店舗での接客の重要性を再確認したいと思う。

 

そもそも接客の目的とは

言葉の意味的なもので言えば、接客とは販売スタッフが直接お客様と接しながら、お客様が商品を購入するまでを対応することを意味する。実際の仕事の流れとしては、店内での声掛けや商品説明、購入をしてもらうようコミュニケーションを取ります。その購入までの流れの中で、お客様にとってより良い状態で購入や店舗の利用をしてもらえるよう、お客様に寄り添った提案やサポートを提供することが接客という仕事でしょう。ですが、店舗での接客には副次的な意味合いもあります。

それは「お客様により高い満足度を提供すること」と言える。

つまりは、接客でお客様がより納得してお買い物をできるようサポートし、商品以上の付加価値を生む仕事だ。接客というものは、売り上げを作る為だけでなく、お店のやブランドの印象を左右する大切な仕事なのだ。

 

接客という存在の多様化

冒頭にも記したが、昨今、店頭の役割が「商品の受け渡しの場」と「ショールーム」に二極化する傾向が生じている。あくまでもこれは接客が不要ということを意味しているのではなく、商品購入までのプロセスが今までとは違ってきているということなのだ。

今まで、入店→声掛け→案内→提案・・・といった販売プロセスが一般的だったものが、より簡略的なものになったイメージだ。

商品の受け渡しの場として利用されるようになった店舗における店頭スタッフの接客においては、よりスムーズにお客様の商品をお渡しし、滞りなくやるべきことをやるということが必須となった。これも接客の一つであり、今までの接客スタイルよりもスピードと正確性が求められるようになった。

一方、ショールームとしての店舗における接客に求められることは少し複雑になった。

具体的には、お客様とコミュニケーションをとることで情報提供を行い、同時にお客様の潜在的な需要やニーズから情報入手する、という2つの役割を担うことになる。すなわち、ショールームとしての店舗のスタッフは、接客において最前線のプロモーションの担い手であると同時に、世の中のニーズや流行に関する情報を収集するマーケティング・リサーチャーでなければならないのだ。

こうした二極化の背景には、間違いなくデジタル社会における消費者行動の変化がある。

 

接客の新たな価値とは

人がモノを買う流れとして、大きく3つのフェーズがあるとされている。見て知るフェーズ(認知)> 買うかどうか決めるフェーズ(検討)> 決済して実際に商品を手に入れるフェーズ(行動)の3つだ。これがすなわち俗に言う「カスタマー・ジャーニー」という考え方だ。

ネットショッピングが普及する前の買い物においては、”認知”の部分は広告やクチコミで行われてきた。そして、”検討”と”行動(購入)”は基本的にセットで行われてきた。つまり店舗では、認知・検討・行動を行う場として機能してきた。その3つのフェーズをスムーズにかつ、より確実性の高いものにするべく接客が行われていた。

しかし、デジタル化社会では、モノと情報が切り離されて流通するため、このセットがバラバラになる。SNSで見知った商品を、店舗で手に取って検討し、店を辞してからスマホを用いてEコマース(電子商取引)サイトで購入し、後日、自宅に届けてもらう、といった行動が可能になった。そのため、店舗やブランドではお客様がお店に来店されてから以外のところでも、ユーザーに対してアプローチ(接客)する必要が出てきたのだ。

店舗でしか提供できないとされてきた一連の3フェーズが現在では、実際に商品を手に取ってみてもらうこと(検討)と、即座に商品を受け渡せること(行動の中の入手)のみとなってしまった。認知や検討については、SNSやネット広告といった媒体のほうがより効率的に利用できるようになったため、店頭のディスプレイを輝かせることでお客様が反応するといったケースも少なくなってきてしまったのだ。

 

では今後の店舗での接客は今後どのような必要性があるのだろうか。

店舗での接客が不要となることはない。形を変えて接客というものを考える必要があるのだ。販売スタッフがSNSで店舗情報を発信したり、商品に対する説明文を考えるのも重要な接客と言えるだろう。また、レジで決済する際によりスムーズかつ多種多様な支払い方法に応じることもそれと言えるだろう。サイズ別の在庫を分かりやすく展示したり陳列するのもそれだろう。コミュニケーションを「沢山話す」ことから見せたり・促したりすることも接客の一つとして再理解する必要があるのだろう。

これからの未来、どんな世界が待っているのだろうか。

ヨーロッパではあえてデジタル化を行わず、店舗での体験を重要視する流れもあると言われている。

人がその時代ごとに何を感じ、どう行動するのか。