世界各地で物価上昇が続いていることで記録的なインフレが起こっています。日本人がアメリカへ行けば、お昼ご飯を食べるのに日本だと800円前後で食べることができる一方、円安の影響もあいまってアメリカでは2000円前後もかかってしまいます。これはアメリカだけにとどまらず、世界各国で起きている現象です。その主な原因はサービスの消費からモノの消費へのシフトや労働者の仕事離れによる人材不足、ウクライナでの戦争による燃料の不足と高騰なども大きな要因と言われています。このインフレにより、世界的な賃上げ傾向にあり、オーストラリアでは時給3400円のアルバイトなども存在しています。

この対応策として、欧米各国の中央銀行は急ピッチで利上げに奔走しており、景気への悪影響を覚悟で抑え込もうとしています。このような急速な利上げを欧米が進める一方で、日本だけが超低金利の金融緩和を維持しています。それにより、日本では円安が止まらない状態が続き、2022年(令和4年)10月には、為替相場が1ドル150円台に突入するという、数十年ぶりの水準を記録しています。ここで考えるのは、このインフレと円安がどのようにファッション業界へ影響を与えるのかということです。

アパレル業界が受けてる影響とは

日本国内で販売される衣類の多くは、海外の工場で製造し、輸入でまかなっています。そのため、物価上昇による外国人労働者の人件費増加や円安による輸入品の価格高騰など、アパレル業界は大きな打撃を受けています。仕入原価の高騰に合わせて販売価格も上昇の一途をたどっています。とはいえ、驚くことに、主要な衣料品は約30年前から価格が下がり続けているが現状です。

 

国内の消費動向は節約志向による減少傾向が言われております。物価の上昇や円安によって消費者の家計が圧迫されており、節約志向が高まっています。そのため、消費者が衣類にかける費用が減り、アパレル業界の売上も減少していると分析されています。また、昨今では消費者ニーズが高級志向と低価格志向で二極化しており、安価でカジュアルな衣料品を選択する消費者も多くなっています。若年層のファストファッション先行型の消費は加速し、日本の主要経済層である40代以上、インバウンド需要が高級品の消費を加速させる形となっています。

 

昨今のファストファッションの形態が根付いてきたアパレル業界では、低価格化が当たり前となっています。従来では原料の高騰があっても、製造工程でのコスト削減により、価格の据え置き対応を行っていました。しかし、昨今の物価上昇、円安進行による影響は大きく、価格維持が難しくなってきています。また、商品の輸送コストの増加も顕著で、今まで以上に企業の輸送への負担が大きくなっています。

 

原材料の高騰もアパレル業界を苦しめています。中でも繊維の原料である綿花や原油の高騰による影響は非常に大きいと言えるでしょう。日本では作られる綿などの天然繊維の原料である綿花や麻、ウール、化学繊維の原料である石油はほとんどが輸入品です。そのため、原材料を仕入れて国内で生産している繊維産業では、洋服の素材である生地の値上げを行っており、これがアパレル業界に大きな影響を与えています。

市場の実態「ブランド力の差」

市場での実態は、ブランド力のある企業は継続的に値上げできている一方、値上げができない中小プレーヤーがたくさんいるという構造になっています。実際のアパレル市場は非常に細分化された市場構造になっています。グローバルでシェアトップのZARAを擁するインディテックスでもシェアは約2%しかなく、市場には有象無象のブランドがたくさんあります。そのような中で、「値上げをできるブランド」と「そうではないブランド」の差が開き続けているのが実態です。

たとえば、アメリカのあるアフォーダブルラグジュアリーのブランドでは、コートなどの重衣料において、2013年の価格を100とすると2023年は170になるまで値上げしています。また、高価格帯ではなく低価格帯の外資系マスアパレルでも、同じく重衣料で2013年の100に対し140と、40%の値上げに成功している企業もあります。一方で、国内アパレル企業でここまで値上げできている企業は、ほとんどありません。大半が2013年対比でCPIの衣料品平均上昇幅と近似している20%程度の値上げか、それよりも低い値に留まっています。その中で国内の中小ブランドで値上げできているところがどこまであるのか、となると多くはないのが現状と言えるでしょう。

 

 

世界的なインフレはアパレル産業に何をもたらすのか。それは、直接的な影響というと「価格高騰」の一言に尽きるでしょう。しかし、それに伴なう副次的な影響も大きく、従業員の賃上げや、店舗の賃料アップ、輸送コストアップによる利益減など多方面に渡ると言えるでしょう。そして、この難局を乗り越えるにはブランド・ショップ・企業のブランド力やロイヤリティを上げていくのも一つの手と言えるでしょう。さらなるサービス拡充もいいですし、ストアスタッフの教育も良いでしょう。ユーザーにとってより有益な存在となれるよう努力することが最善策と言えるのではないでしょうか。