近年、ファッションのトレンドが目まぐるしく変化する中で、再び注目を集めているのが「アメリカントラッド」スタイルだ。その中心にいるのが、アメリカンファッションの象徴とも言えるブランド、ラルフローレン(Ralph Lauren)**である。かつて一世を風靡したクラシックなアイビースタイルが、Z世代やミレニアル世代の間で新鮮に映り、ヴィンテージ市場やSNSを通じて静かなブームとなっている。本稿では、アメリカントラッドの復権とラルフローレンが現代に放つ新たな魅力について紐解いていく。
アメリカントラッドとは何か?
まず、アメリカントラッド(American Traditional=通称「アメトラ」)とは何かを簡単におさらいしておこう。アメトラとは、1950~60年代のアメリカ東海岸、特に名門大学の学生たちの間で広まったアイビールックを中心としたスタイルを指す。ネイビーブレザー、オックスフォードシャツ、チノパン、ペニーローファーといった、シンプルながら品のある着こなしが特徴だ。
このスタイルは、英国のトラディショナルなスタイルをルーツとしながらも、よりリラックスしたアメリカ独自のエッセンスを加えたものであり、長年にわたって多くの男性たちのワードローブに根付いてきた。80年代には「プレッピー・ルック」として再燃し、現在では一種のクラシックとして認識されている。
アメリカントラッドの代名詞
そんなアメリカントラッドを象徴するブランドが、ラルフローレンだ。1967年にネクタイブランドとしてスタートした同社は、瞬く間にアメリカンドリームの体現者として成長。1970年代には初のメンズスーツラインを展開し、そのクラシックでありながらラグジュアリーなデザインで圧倒的な人気を獲得した。
ラルフローレンの魅力は、単なるトラッドスタイルにとどまらず、アメリカのライフスタイルそのものをファッションに落とし込んでいる点にある。イーストコーストの上流階級の生活を想起させる「Polo Ralph Lauren」、カントリースタイルの「RRL(ダブルアールエル)」、スポーツやストリートの要素を取り入れた「Polo Sport」など、異なるコンセプトラインを展開しながらも、そのどれもが「アメリカの美意識」を共通項として持っている。
なぜ今、アメトラなのか?
2020年代に入り、再びアメリカントラッドが注目を集めている背景には、いくつかの要因がある。
まず一つは、「ノームコア」や「ミニマリズム」の反動だ。2010年代後半から続いた無個性・無装飾のファッションスタイルに飽きを感じ始めた若者たちが、より個性的でストーリーのあるスタイルへと回帰している。その中で、アメトラは「クラシックでありながら語れる要素が多い」スタイルとして評価されている。
二つ目に、サステナビリティ意識の高まりも見逃せない。トレンドに左右されず、長く着られる服を求める風潮の中で、ラルフローレンのような質の高いクラシックウェアが再評価されている。実際、ヴィンテージのラルフローレンを取り扱う古着店やオンラインマーケットでは、90年代の「ポロスポーツ」や「POLOベア」シリーズが高値で取引されている。
また、**デジタルネイティブ世代の「懐古主義」**もある。SNSで拡散される昔のファッション写真や映画、ドラマ(例:『グッド・ウィル・ハンティング』『デッド・ポエッツ・ソサエティ』など)に影響を受け、「90年代の大学生風」や「エリート校のキャンパススタイル」を真似る動きが強まっている。
ラルフローレンの現代的アプローチ
こうした流れを敏感に捉えて、ラルフローレン自身もブランドの刷新に取り組んでいる。
例えば、2022年にはヒップホップとアメトラの融合をテーマにしたカプセルコレクション「Polo Ralph Lauren × Morehouse & Spelman Colleges」を発表。これは黒人歴史月間にあわせて、アフリカ系アメリカ人の伝統的な大学文化を称えるもので、トラッドなアイテムに新たな意味合いを付与した画期的な試みとして注目を集めた。
また、デジタル領域への進出も目覚ましい。メタバース内でのバーチャルウェア販売や、AIを活用したスタイリング提案など、伝統を守りながらも現代のテクノロジーと融合させたアプローチを積極的に推進している。
さらに、ラルフローレンはこれまで男性中心だったアメトラの世界に、女性やノンバイナリー層の視点も取り入れている。ジェンダーニュートラルなラインや、ユニセックスなデザインを積極的に打ち出すことで、より多様な価値観と共鳴するブランドへと進化している。
ラルフローレンを着るということ
ラルフローレンの服を着るということは、単に「ブランド品を身にまとう」以上の意味を持つ。そこには、アメリカン・トラディショナルに息づく知性・品格・自由・自立といった価値観が込められている。そしてそれは、年齢や性別を問わず多くの人にフィットする普遍性を持っている。
現代の若者が、古着屋で見つけた一枚のラルフローレンのシャツに惹かれる理由。それは、その服に込められた「過去と現在、伝統と革新」の物語を、無意識のうちに感じ取っているからかもしれない。
伝統を着る、未来を装う
アメリカントラッドは、単なる「懐古趣味」ではなく、現代的な意味合いを持ったファッション哲学として再評価されつつある。その中核を担うラルフローレンは、半世紀以上にわたりアメリカンスタイルの象徴として君臨してきたが、いま再び時代の先端へと歩みを進めている。
過去をリスペクトしつつ、未来へ向かうラルフローレンの姿勢は、これからのファッションにおいて重要なヒントを与えてくれるはずだ。アメトラの復権は、単なるトレンドの一環ではなく、本質的な価値の再発見なのかもしれない。