夏といえば水回りでのアクティビティも盛んになる季節。夏だからこそのファッションの一つに「水着」の存在があります。
今では様々な形とデザインのアイテムが発売されており、国や伝統によっても好まれる形や素材が違ったりしています。そんな水着ですが、いつの時代から今の形となっていったのでしょうか。ファッションアイテムの一つとして”ビキニ”という存在が主流となっていますが、果たしてどのようにして生まれたのか。今回は水着に関する歴史を深掘りしてみます。
水着の歴史とファッションの変遷
夏といえば海やプール、そして欠かせないのが「水着」である。現代ではスポーツウェアとしてだけでなく、ファッションアイテムとしても多彩なバリエーションを誇る水着。しかし、その歴史をたどると、単なる衣服としての側面以上に、時代背景や社会の価値観の変化を映し出す鏡でもあることがわかる。本記事では、水着の誕生から現代に至るまでの歴史とファッション性の変遷について、文化的視点も交えながら探っていく。
古代の水浴文化と衣服
水着の起源を辿るには、まず古代の水浴文化に目を向ける必要がある。古代ギリシャやローマでは、公共浴場が社交の場として機能していたが、当時の人々は裸で水に入ることが一般的であった。水泳や水浴が特別な衣服を必要とする活動ではなかったため、いわゆる「水着」という概念自体が存在していなかったのである。中世ヨーロッパに入ると、キリスト教の影響で肌を露出することが厳しく禁じられ、水に入ることすら慎まれるようになった。この時代、水浴そのものが不潔で罪深い行為と見なされ、水着というものの発展は長く停滞することとなる。
水着の誕生と女性の解放
19世紀になると、産業革命に伴って都市化が進み、余暇や観光という概念が一般大衆に浸透していった。ビーチリゾートが発展し、上流階級を中心に「海水浴」がレジャーとして楽しまれるようになる。これに伴い、ようやく「水着」が衣服として登場することとなった。しかし当時の水着は、現代の目から見ると水着とは言い難い代物だった。特に女性用の水着は長袖のブラウスに長いスカート、さらにはタイツを重ねたスタイルで、肌の露出を極力避ける設計だった。その理由は、当時の厳格な道徳観や、女性が性的に見られることへの社会的な忌避である。
20世紀初頭、女性解放運動が高まる中で、水着にも変化の兆しが見え始める。1907年、オーストラリアの競泳選手アネット・ケラーマンが、当時としては非常に大胆なワンピース型の水着で登場し、周囲を驚かせた。彼女はこのスタイルで逮捕されるも、水着改革の象徴的存在となり、その後の水着デザインの自由化への扉を開いた。
ビキニの登場と衝撃
第二次世界大戦後、1946年にフランスでデザイナーのルイ・レアールによって発表された「ビキニ」は、水着の歴史において最大の革命である。このビキニは、当初多くの国で着用が禁じられるほどのセンセーションを巻き起こした。
レアールがビキニと命名したのは、同年にアメリカが行った核実験の舞台「ビキニ環礁」からインスピレーションを得たとされる。それほどに、ビキニは「爆発的」なインパクトを持っていたというわけだ。
その後、1960年代に入るとセクシュアル・レボリューションの影響で、女性の身体の自由や自己表現が重視されるようになり、ビキニは世界中で一般化していく。マリリン・モンローやブリジット・バルドーといった女優たちの着用によって、ビキニはセクシーで洗練されたイメージを確立していった。
スポーツと水着の進化
一方で、水泳という競技における水着の進化も目覚ましい。1970年代以降、競泳水着はより水の抵抗を減らし、スピードを向上させるために科学的な研究が進められた。特に2000年代初頭に登場した「レーザー・レーサー」などのハイテク素材を用いた水着は、数々の世界記録を塗り替える要因となったが、後にFINA(国際水泳連盟)によって規制されることとなった。
競技用の水着は、単なるファッションとは一線を画し、機能美を極限まで追求した存在として、別の系譜を歩んでいる。
多様性と自己表現としての現代の水着ファッション
現代において水着は、単なる「泳ぐための服」ではなく、ライフスタイルや個性を表現するファッションアイテムとしての側面が強くなっている。SNSやインフルエンサー文化の影響で、ビーチやプールは「映える」場所として注目されるようになり、水着のデザインもより多様で洗練されたものになっている。
トレンドとしては、レトロ回帰やスポーツミックス、ミニマルなモノトーンスタイルから、エスニック調のプリントやサステナブル素材を用いたエコ水着まで、多種多様だ。また、体型や性別にかかわらず着用できるジェンダーレスな水着や、バーレスク風のグラマラスなスタイルまで登場しており、誰もが自由に自分らしさを表現できるようになっている。
加えて、宗教的・文化的背景を持つ人々向けの「モデスト・スイムウェア」も注目されている。イスラム教徒の女性が着用する「ブルキニ」などは、水着の多様性と包摂性の象徴と言える。
水着の歴史を振り返ると、それは単なる服飾の変遷ではなく、社会の価値観、女性の地位、テクノロジーの進化、そして美の基準の変容そのものを反映する文化の一断面である。水着は、身体を覆う衣服であると同時に、自己表現と自由を体現するキャンバスでもあるのだ。これからの水着は、ファッション性や機能性だけでなく、地球環境やジェンダーの多様性といった価値観とも結びつき、さらに豊かな進化を遂げていくだろう。水着という小さな衣服が、私たちに語りかける物語は、今後も尽きることがなさそうである。