ファッション業界にいると、物を作って、それを売るというビジネススキームだけに目を向けがちです。ですが、ファッションビジネスとして企業の買収やブランドの買収といったM&Aというものが存在しています。そもそも、M&Aとは、「Mergers(合併) & Acquisitions(買収)」を略した呼称ですが、企業の合併と買収だけでなく、提携まで含め広義にわたります。
日本のファッション企業と外国資本の参入
ながらくデフレ成長が続いた日本企業の価値は大きく円安に動いたこともあって、外国系投資ファンドが参入しやすい水準になりました。その結果、2022年はファッション業界を巡るM&Aが話題になった年でした。やはり、2022年の大型M&Aといえば、セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武の売却(2500億円)と言えるでしょう。マッシュホールディングスの株式過半数の譲渡(2000億円)が挙げられるが、やはり両社とも外国系投資ファンドが提携先となった。
しかし、双方のM&A後の動向は異なっている。セブン&アイ・ホールディングスの方は、米投資会社バリューアクト・キャピタルが営業利益の大半を占めるコンビニ事業に集中する事業戦略の発表と、苦戦する非中核事業の改革を表明した。こうした動きも影響したのか、子会社のオシュマンズ・ジャパンの発行済み株式の全てを靴流通大手のエービーシー・マートへ譲渡するなどの動きも見せていました。
一方で、そごう・西武は米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループへの売却が決定。フォートレスは西武池袋本店や、そごう千葉店などの主要店舗に家電量販店のヨドバシカメラを誘致する予定のようだが、西武池袋本店の不動産の一部を保有する西武ホールディング側からは、百貨店がかねて取り込んできた顧客層も重視したいなどの意向から、難色が示されたりと改革へは難航している模様だ。
マッシュホールディングスは、米投資ファンドのべインキャピタルに株式の過半数を譲渡した。ベインキャピタルは2013年にカナダの高級ダウンブランドのカナダグースに出資し、2017年にはニューヨークとトロントの株式市場に上場させるなど、アパレル経営実績や上場ノウハウを持っている。今回の契約を機に、中国を中心とした海外事業の拡大やデジタル化を進め、企業価値を高めた上で3〜5年後の新規株式公開(IPO)を目指すという。
この他にも、ワールドがナルミヤ・インターナショナルを買収、ストライプインターナショナルが、ティーキャピタルパートーナーズの出資を受け入れるなどの話題があったりと動きが非常に多かった。企業の再生・変革を促す手法の一つであるM&Aは、医療に例えるならば「一大手術」に近い処置といえるでしょう。ファッション業界では、過去にアダストリアがトリニティーアーツの買収とともにウィンウィンの関係が結ばれた例がある。買収した側と、買収された側の良好な関係を築けることが理想的なM&Aだが、描いた通りの道筋にことがスムーズに進むケースは少ないのが現状だ。今後の動向にも引き続き注目が必要となるでしょう。
昨今のM&A事例
①ワールドによるナルミヤ・インターナショナルの連結子会社化
2022年2月、ワールドは、TOB(株式公開買付け)を実施しナルミヤ・インターナショナルを連結子会社化しました。ワールドは、以前よりナルミヤ・インターナショナルの株式25%を所有していましたが、これをTOBで51.59%に引き上げ子会社化しました。ワールドは衣料品の販売事業とそれに関するブランド事業、デジタル事業、プラットフォーム事業を行うグループ会社で、ナルミヤ・インターナショナルは、ベビー・子供服の企画販売を行っている企業です。ワールドとしては、連結子会社化することで従前よりも多岐にわたってシナジー効果が得られると判断しての実施となりました。
②TSIホールディングスによる3ミニッツのアパレル事業の譲受
2020年8月、TSIホールディングスは、M&Aにより3ミニッツのアパレル事業を譲受しました。買収側のTSIホールディングスは幅広い顧客層のさまざまなニーズに応える経営方針を推進しており、中期経営計画では「デジタル企業化」を重点領域として掲げています。売却側の3ミニッツのアパレル事業「ETRÉ TOKYO」は、アパレル商品企画販売事業で、自社Eコマースを主要販路にしつつ、ファッションインフルエンサーをクリエイティブディレクターに起用して来ました。また、SNSなど新たなデジタルメディアをコミュニケーションツールとして活用するマーケティング手法により、20~30代女性を中心に支持を広げてきました。TSIホールディングスグループの持つ商品企画開発力をはじめとする生産物流および海外の事業インフラなどの活用を推進し、アパレル事業の成長スピードを加速化させるとの発表がありました。
このように、ファッション業界ではM&Aという形でビジネスを譲渡・売却を行っています。実際に販売の現場や生産の現場にいると、このような事と関わりのないような気がしますが、会社の方針やブランドの進む方向が大きく変わったりと自身の業務にも大きく影響を与えます。