「買い物に行くのは好きだけど、店員さんに話しかけられるのが好きじゃない・・・」そんな若者が増えている昨今。以前は、気の知れた店員さんに接客されたい!といった目的でショップを訪れるお客様が多かったように思える。これを、単に時代の変化という言葉でだけで片付けてしまうのは、少々安易すぎる気がする。

 

そもそも、昔にも「店員さんに話しかけられるのが好きじゃない」というお客様がいたに違いない。しかし、店員さんと話さなくては好みの洋服を買うことができかったり、お気に入りの1品を見つけることができなかったのではないだろうか。つまり、お客様自身の行動の選択肢が、インターネットやSNSの発展を遂げた今に比べて少なかったからかではないだろうか。

 

しかし、今も昔も人間としての特性に大きな変化は無く、「店員さんに話しかけられるのが好きじゃない」という人も、一度接客を受けた際に印象が良く仲良くなってしまえば、そんな風に思うことは無くなるように思える。

言ってしまえば、今と昔の「接点(タッチポイント)」に違いがあるだけではないだろうか。

 

「声掛け不要」バッグ

お客様が店員の声かけを必要としなくなった今、ショップ側も対応を模索している。

セレクトショップのアーバンリサーチは17年5月以降、全国23店舗に「声掛け不要」バッグを導入し、大きな話題となった。店頭に置いた青い透明の手提げバッグを持ったお客様には、声をかけないという仕組みになっている。これを手がけた担当者によると「お客様の選択肢の一つになればと導入した」ということだった。

ショップ側もお客様と商品・ブランドの接点の選択肢を増やすという意味合いでの導入だったのではないだろうか。

 

ファン獲得のためのSNS強化

昨今、レディースブランドが力を入れているのがSNSでのフォロワー獲得だ。これはブランド公式アカウントでのフォロワー獲得をだけでは無く、販売スタッフ個人のフォロワー獲得も目指しており、ショップ単位・スタッフ単位でのファン獲得を目指すものだ。つまり、スタッフの「インフルエンサー化」が一つの顧客獲得策になるのだ。「インフルエンサー販売員」は、自分の店の商品を身につけて写真を撮り、ブログやSNSで発信する。物を売るという感覚ではなく、”会える”・”同じ服を身につけられる”という体験を提供することで顧客化を図るのだ。

これは昔でいう「カリスマ店員」と同じ原理ではないだろうか。雑誌でモデルのようなファッションセンスを光らせ、それに憧れを抱いたファンがお店に来店し、顧客様となるというのと同じのように感じる。接点が雑誌やカタログだったのが、SNSに変化したのだ。

 

変化した情報収集の方法。今はネットから

「ファッション情報はネットで・・・」

若者がスタッフとの会話よりネットに頼るようになったのは、2008年ごろからと一説では言われている。これは、iphoneが日本に本格的に上陸し、リーマン・ショックが世界を経済不況に陥れた年だ。

雑誌の休刊が相次ぐのにあわせて、スマホの普及が若者はファッションの情報をネットから得るようになるのを後押しした。ネットでは、自分の思い思いフィルターを通して物を見ることができる。情報にも制限がなく、限られたスペースや一辺倒のトレンド情報に占有されることもないのだ。

サイズや値段などのディテールを知りたければ通販サイトを覗くことで、容易に情報を得ることができる。

 

絶対的な法則と思われていAIDMAの法則

声かけは本当に売り上げにつながるのか?という疑問が浮かぶ。

関西大学社会学部の池内裕美教授(消費者心理)によると、消費者の心理プロセスを表す「AIDMA(アイドマ)の法則」に従えば、店員の声かけは「理にかなっている」という。

まず、店員の声かけで「注意(Attention)」を引き商品を認知させ、似合っている、流行しているといった情報を与えて「興味(Intrest)」を持たせる。そして、欲しいという「欲求(Desire)」を感じさせて、商品を「記憶(Memory)」させる。さらに試着という「行動(Action)」まで引き込めば、一気に購入に近づく。

だが、時代の変化と共に進化した情報化社会が、従来のAIDMAの法則に当てはめられていた行動に変化がみられる

SNSやインターネットで「注意(Attention)」を引き商品を認知させ、値段や詳細情報、スタイリング写真を交えて「興味(Intrest)」を持たせる。そして、欲しいという「欲求(Desire)」を感じさせて、商品を「記憶(Memory)」させる。そして、「行動(Action)」といった具合だ。

 

ショップでは「接客」に尽きる

前述にもある通り、お客様とブランドや商品との接点は時代の変化にあわせて、複雑化している。しかし、購買行動や欲求には今も昔も大きな変化がないように思える。商品を1から10まで説明することが接客ではなく、お客様それぞれに最高のおもてなしをする事こそが『接客』であることを忘れてはいけない。それが、商品を説明するトークでなく日常会話に近しいものであっても、最後のレジの際の対応であっても、お客様が満足していただける環境を作るのも接客なのではないだろうか。