ファッションの世界で一旗あげようと夢を見る人は少なくない。日本におけるファッションビジネスと、その規模を世界まで広げるとでは、まるで金額規模が大きく違ってくるだろう。実際に日本国内でファッションブランドを立ち上げるとどのような事業拡大や事業規模が見えてくるのだろうか。

 

ブランドを始めて、最初に自身の作品に価値が付き、ビジネスがスタートされるのが展示会だ。多くの人の目に初めて触れてもらう瞬間だ。

ある合同展示会主催者によると「ブランドを立ち上げても卸売りだけなら、最大でも3億円程度の売上高までしか成長できないだろう」と見解を示したが、果たしてこれは本当なのだろうか。これはおそらく本当で、卸売りだけでビジネスをしようと思うとブランドを新規で立ち上げた場合の売り上げ規模は3億円〜5億円程の規模が最大ではないかと思う。

ビジネス規模を拡大するには

前述にもある通り、現実的はところ、国内のドメスティックブランドも卸売りでは3億円〜5億円程の規模が最大ではないか。

 

東京コレクションの常連ブランドを参考にしてみよう。

東京コレクションに数年に渡りラインナップされ、雑誌やSNSなどのメディアでも取り上げられることの多いブランドがあったとして、その売上規模はいかほどのなのだろうか。実際のところは3億円という規模に到達できないのがほとんどだ。大多数のブランドは年商3,000万円~5,000万円程度だと推測される。卸売りのみを生業にしているドメスティックブランドに特にその傾向が強いと考えられる。そう考えると、実際に3億円という指標に到達するのも至難の業と言えるだろう。

 

デザインにこだわりのあるブランドこそ売上規模を大きくすることが難しい。なぜなら、別に日本人が保守的だからというわけではなく、世界中どこの国でも奇抜な服は売れないのだ。それは、需要が少ないからだ。ファッションは「洋服好き」だけのものでは無く、おそらく大多数と思われる”一般”の人々によって支えられている。そこを忘れてファッションのビジネスを語ってはいけないだろう。

デザイナーズブランドの多くは「独創性」を重視する。必然的にデザイン、シルエット、色、柄の最低でもどれか一つは奇抜にならざるを得ない。そうでなければ、既存のブランドのアイテムだけで全ての需要を満たせてしまうからだ。奇抜なアイテムを作る、そうすると需要が少ないわけだから当然、売上はそれほど伸びない。だからこそ、デザイナーズブランドの売上高が大きくないのだ。

 

世界を見据えたブランドビジネス

しかし、昨今のドメスティックブランドにも世界的なブランドまでのし上がり、ドメスティックブランドの星となった事例がある。

それが、「SACAI」の100億円達成という事例だ。SACAIの躍進には各メディア媒体がこぞって記事にした。しかし、他のデザイナーズブランドのように卸売りに特化していない。卸売りだけではなく直営店がいくつもあること、また世界34か国で展開していることを考えれば、各国での需要は少なくても世界全体でまとめればそこそこの数量になるということである。またSACAIを有名した事例として、有名ブランドとのコラボレーションアイテムの発表も理由一つにある。ブランドスタートから11年目の頃には「モンクレール」のデザイナーに登用され、最近ではナイキラボとのコラボもあった。

 

SACAIから学ぶように、ドメスティックブランドが10億円規模に達したいのであれば、卸売の強化だけではなく自分達の世界観を直接ユーザーへ伝え、直接販売することのできる直営店を運営することが重要だ。そして、その名を世界へと広げるためには、大手有名ブランドとのコラボレーションアイテムの発表が重要となってくる。

冷静に商戦を振り返ってみると、シーズンごとに渾身の力を込めて洋服をデザインしたところで「今シーズンのデザインが良かったからオーダー数量を2倍に増やすよ!」なんて小売店が世界中を見渡しても多数現れるはずもないだろう。「大手セレクトショップに取り上げてもらえればブランドが拡大できる」なんて考えているデザイナーもいるかもしれないが、現在の大手セレクトショップの取扱製品の8割前後は自社企画の商品で、あとの2割で海外の有名ブランドを仕入れるに過ぎないのだ。話題の新進気鋭のデザイナーズブランドを仕入れることがあったとしても、全国規模での展開などはあり得なく、ヘッドショップや人気店舗での味付け程度の規模のオーダーにしかならないだろう。渾身の力を込めて洋服をデザインすれば、どこかの誰かが評価してくれて、それにより卸売り枚数が飛躍的に伸びるなんて事はとても現実離れした考えとも思える。

商社によるブランドへの積極的投資

最近では日本でもいくつか事例がある。商社や生地商社がドメスティックブランドをバックアップしたり、商社がドメスティックブランド運営したり、ブランドを丸ごと買収したりというケースが年に数件かあるのは事実だ。

しかし、その多くは費用対効果が悪く回収に時間がかかる事で撤退をするケースが大多数だ。強靭な資本力を持ち合わせたからといって、飛躍的に売上規模を伸ばすというのが幻想に過ぎない。それに製品の価格が高ければなおさらだ。時代の流れを考えれば、消費者のファッションにかける金額は減少傾向だ。ファストファッションが浸透しきっている日本においては明白の事実だろう。それならば、前述も頷ける。

 

これこそが、ドメスティックブランドのリアルな経済と言えるだろう。