日本のファッション業界において、最も古い歴史を持ち、最も関係性の深い存在こそ「百貨店」です。
江戸の商業地として発展した日本橋の中でも、「越後屋呉服店」「白木屋呉服店」「大丸屋呉服店」などが『江戸三大呉服店』と呼ばれていました。江戸を代表する呉服店となり、明治時代以降、それぞれ前身となる百貨店へ発展しました。それぞれが、「三越」「白木屋」「大丸」となりました。また、明治時代には京都の「髙島屋」も東京に進出し、現在の百貨店の形態を成しました。”ファッション=衣類”を購入するという事象を日本に広め、ある意味ファッションビジネスの原型を作ったのが百貨店と言っても過言ではありません。
そんな歴史ある百貨店も、2020年のコロナによる打撃は大きく、売上は大きく減少傾向にありました。その後も、大型商業施設が地方に増えるにつれ都心型の百貨店の情勢は苦しくなる傾向にありました。百貨店業界の過去の業界規模の推移を見ますと、2019年までは横ばいで推移していましたが、2019年から2021年は大幅な減少傾向になりました。しかし、2022年以降は今までのトレンドとは違った推移を見せます。
需要回復傾向が見えた2022年
2022年の売上高は5.5兆円(前年比2ケタ増)と需要は回復傾向を見せました。2019年までは6兆円台の売上規模をキープしていましたが、2020年は4兆円半ばまで急落、2021年も増加に転じたものの4兆円台に留まりました。一方、2022年は5.5兆円まで回復しており、コロナ過渡期の最悪期は脱したとみられています。近年の百貨店の動向を見ると、2020年〜2021年は新型コロナによる影響を大きく受けたことで、百貨店の需要は急激に落込みました。2021年の年末にかけては一時的に来店客数と売上は順調に推移しましたが、年始から初秋にかけての業績低迷が響き、全体では低水準で推移しました。
2022年の百貨店業界においては、完全な回復には至りませんが、最悪期は脱しているように思えます。長く続いた行動制限の緩和によって外出の機会が増え、購買客数、売上ともに増加、2022年10月以降は海外からの水際対策の緩和と円安の影響も加わり、インバウンド需要も増加傾向に転換しました。外国客による買い周りは百貨店の売上に好影響を与えていると言わざるを得ません。
百貨店の売上高の推移(出所:経済産業省)
百貨店の売上高は2015年をピークに減少傾向にあります。ここ数年は、富裕層やインバウンド需要に支え得られてきた百貨店業界ですが、その恩恵を受けているのは、都市部や首都圏の店舗です。ですが、一方で地方や郊外店は恒常的な赤字で閉店が相次いでおり、百貨店業界全体を見ると売上規模は縮小傾向にあるのが現状です。2022年11月には、セブン&アイ・HDが「そごう・西武」の売却を発表しました。2023年1月末には、再開発が進む渋谷の東急百貨店本店が閉店するなど、都市部で展開する百貨店も状況が変わりつつあります。
2022年までの百貨店の商品別の売上高の推移をグラフで見てみましょう。
百貨店 商品別の売上高の推移(出所:経済産業省)
すべてのカテゴリーで前年比増となり、なかでも富裕層による高額商品の購入が好調でハイブランドを中心に売上を牽引しました。全体では急落前の2019年の業績から約9割近い回復が見られています。2022年の3月にはまん延防止策が終了し、百貨店業界はコロナ流行以降、初となる行動制限のないゴールデンウィークや夏休みを迎えることができました。入店客数、売上ともに大幅な回復となりました。2022年10月の水際対策の大幅緩和により訪日外国人の需要が戻りつつあります。円安効果も加わり台湾や韓国、中国の他、マレーシアやシンガポール、タイなどの東南アジアからの来店客が多く見られ、都市部の百貨店はインバウンド需要に支えられていた側面もあることから、今後の訪日外国人需要に期待がされています。
今後の百貨店業態の未来
デジタル化を加速 ネットとリアル店舗の往来を促進することが一つの目標に掲げられています。昨今、百貨店各社は新しいビジネスモデルに着手してきました。場所貸しをメインにして安定的な収入を得る”脱百貨店型”や百貨店側が商品企画や品ぞろえを決め、従来の売り場をより強化する”売り場拡充型”などの新たな戦略です。
そんな中、各社がそろって注力しているのがデジタル事業です。近年、オンラインストアの台頭で消費者の購買行動が変化しています。百貨店はこの変化に十分な対応ができず、EC化で後れを取っていましたが、コロナをきっかけにデジタル化を加速させています。さらには、D2Cブランドとの協業を拡大し「売らない店」とも呼ばれる、ショールーム型の事業も進めています。店頭には商品の見本のみを置き、オンラインストアで購入してもらうというスタイルです。
高島屋は、ギフトに最適な商品を紹介するメディア型オンラインECサイト「Meetz STORE(ミーツストア)」を拡充させています。高島屋ではネット事業を成長分野と位置づけ、オンラインストア独自商品の開拓や販売チャネルの多様化でEC事業を拡大、2023年には売上500億円を目指しています。同社でも「売らない店舗」として、2022年4月に新宿高島屋内にショールーミングストア「Meetz STORE(ミーツストア)」をオープンさせたほか、化粧品を皮切りにネット専用倉庫を設けています。
コロナ禍で業績の悪化を見せた百貨店業界もインバウンド需要などにより、景気の回復傾向を見せています。また、オンラインストアの拡充により更なる売上増加を目指している百貨店も多く、ファッション業界と百貨店業界は新たな未来を歩み出そうとしています。