ファッション業界においてミリタリーウェアの存在は切っても切れない存在です。いわゆる”軍物”と言われるものです。

なぜファッション業界において重要な存在かというと、ファッションアイテムの多くはミリタリーウェアのディテールを採用している物が多く、普通のアウターやボトムスと思っていたものが、実はミリタリーウェアに由来しているものも多く存在しています。

 

時代の最新技術が全て盛り込まれた衣類

戦場という過酷な状況と、特殊なニーズに基づいて仕立てられるミリタリーウェア。徹底的にスペックを追求した結果、ある種の機能美ともいえるデザイン性の高さを備えているものが非常に多くあります。それをデザインというフィルターを通してファッションに取り入れれば抜群のインパクトを放ちます。また、男心をくすぐるうんちくがたっぷりと込められているのもこの手の服の魅力でしょう。それだけでなく、ピーコートやダッフルコート、トレンチコートなど今やトラッドのアイテムと思われている服の多くは、ミリタリーウェアがルーツであったりします。いわば男の服飾の基本であり原点ともいえるのが、ミリタリーというジャンルなのです。

最も狭義のミリタリーブランドの定義といえば、軍での採用実績があるか否かによります。これ以上にわかりやすいこともないでしょう。米軍にフライトジャケットを納入している「アヴィレックス」などは今では現代ファッションのMA-1の代名詞と言えるでしょう。ちなみに、アメリカ軍では国内に一定の生産規模の工場を有しており、ミルスペックと呼ばれる軍の調達規格に適合するメーカーやブランドを製造メーカーに指定してウェアやブーツ類を仕入れています。このときの仕入れから生まれる余剰在庫や、ユーズド品を払い下げたものがいわゆる放出品と言われるもので古着界隈に出回るのです。

 

ミリタリーウェアにインスパイアされたアイテムの登場

1980年代以降にミリタリーウェアのヴィンテージが高値をつけるようになると、それらの再現を目指すレプリカブランドが誕生します。いわゆる復刻モデルやリプロダクトと呼ばれるアイテム達です。その後、90年代にかけて古着熱の高まりとともにヴィンテージレプリカブランドが乱立。日本人ならではの研究熱心さも相まって、オリジナルを凌駕する出来栄えのプロダクトも見受けられるほど、技術的に成熟しているジャンルでもあります。

男の服飾の基礎となるジャンルであり、さまざまなデザイナーにインスパイアを与えてきたミリタリーウェア。いわゆるオリジナルのリアルな再現を目指すレプリカブランドと異なり、現代のタウンユースやトレンドにフィットするようにアレンジを加えたりしたものも多く見られます。それらのアイテムを得意とするファッションブランドも、広義にはミリタリーブランドといえるでしょう。レプリカブランドでは弾数が少ない1970年代以前のヴィンテージピースを復刻することが多いのですが、これらのファッションブランドはデザイン性が高ければ年代にこだわらない傾向が強いのも特徴です。

 

究極のフライトジャケット「MA-1」

MA-1は主にアルファ社製造の軍用製品が元祖である、フライトジャケットの雄。軍用機の飛行高度の高まりにより、服に付着した水分が氷結することが判明したため、従来の革製フライトジャケットからナイロン製に移行。以降、1950年代初頭にアメリカ空軍が開発したのが、このMA-1フライトジャケットです。MA-1といえば、レスキューカラーのオレンジ色を採用した裏地が有名ですが、このディテールは1960年代に採用された第5世代以降のモデルでヴィンテージのMA-1を探す時の指標となっているのです。究極のフライトジャケットという高い評価を得ているMA-1。それは最小限のディテールで構築された、最高の機能性に由来します。後ろ身頃の丈が前身頃より短く設定されているのも特徴です。これは航空機のシートに座った際に、尻と腰の間に生地が挟み込まれないようにするための仕様です。

今では第五世代以降のモデルが現代ではレディースブランドのアウターの一つとして採用されていたりします。

 

極太シルエットとして現代に昇化されたカーゴパンツ

ファッションアイテムとして浸透したミリタリーウエアの中で特にボトムス部門において根強い人気を誇る大定番こそ、通称「カーゴパンツ」や「6パケットパンツ」などの愛称で知られる『BDUパンツ』です。タウンユースはもちろん、アウトドアユースでも活躍してくれます。

元来、「BDU」とはアメリカ軍に採用され、兵士に着用されていた戦闘服「Battle Dress Uniform(バトル・ドレス・ユニフォーム)」の略称です。なので、『BDUパンツ』の場合は、『バトル・ドレス・ユニフォーム』としてアメリカ軍が採用していたパンツのことを指しています。丈夫なツイル素材や複数ポケット仕様、股上の深さや、シルエットの太さなどがスリムフィット一辺倒だった日本のボトムス文化に新鮮な風をもたらしました。

 

 

コートの代名詞「トレンチコート」

トレンチコートが生まれたのは第一次世界大戦下でのことです。イギリス軍が西部戦線での長い塹壕(=トレンチ)に耐えるために、悪天候用の防水コートをつくったのが起源。その原型となるアイテムは1900年頃に考案され、第一次大戦での普及が契機となり一般にも普及されたとされています。生地はコットンのギャバジンやウールを用いるのが主流だが、現在は合成繊維やレザーで仕立てたアイテムも中には存在します。

人気ブランド「バーバリー」ではライナーに”バーバリーチェック”を用いた生地を使用し一世風靡しました。1879年に、ギャバジンという現在のバーバリーの代名詞ともなる織物を開発。1888年には特許を取得し、1917年までその製造権を独占しました。「バーバリートレンチコート」に使用されているギャバジンという生地は、羊毛でできたウーステッドという織物をさらに綾織りにし、独自の方法で加工することで、耐久性と防水性に大変優れたものになっています。

 

 

意外にも多くのファッションアイテムがミリタリーウェアを起源や創作基として使用されています。昨今人気のキャンプ道具やキャンプウェアにも多くのミリタリーウェアのディテールが採用されていたりなど、本当に多くのアイテムがインスパイアされたいるのです。今後は少し違った視点で服を見てみてはいかがでしょうか。