なかなかいいお話ですよ!

スイスに学ぶ「On」と「Off」をつなげた自立
(高原豪久氏の経営者ブログ)
2016/5/12 6:30 [有料会員限定]
ユニ・チャーム社長 高原豪久氏
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この経営者ブログを書き始めてから今回で100回を迎えます。いつもお付き合いしてくださる読者の皆様に厚く御礼を申し上げます。

さて、数年前のことになりますが異業種の方々とスイスへ視察に行く機会を得ました。そもそも訪問先にスイスを選んだのは、九州と同じくらいの国土に人口800万人弱の国でありながら、どのようにして世界的な大企業やいわゆるエクセレントカンパニー(重電エンジニアリング企業のABB、高級腕時計のウブロ、そしてネスレなど)を輩出しているのか。
高原豪久(たかはら・たかひさ)1961年7月生まれ。愛媛県出身。創業者で父の慶一朗氏から2001年に、39歳の若さで社長のバトンタッチを受ける。創業者である先代社長慶一朗氏が盤石にした生理用品、子供用紙おむつなど国内の事業基盤を継承。2代目としてアジアなど新興国を中心とするグローバル化をけん引し、P&Gやキンバリー・クラーク、花王など巨大企業を相手に、互角以上の戦いを演じる企業へと導いた。
また、「小さな国土・少ない人口=小さな国内市場」というハンディ・キャップをものともせず、グローバル化に活路を見出し、規模ではなく高品質を追求して競合との差別化競争に勝ち抜き、ブランド力を高めるために何を行ったのかを学ぶことを目的としていました。
そのような目的意識を持って出発した私が、旅を通じて感じた自身の変化は、つきつめると「国家観」が変わったことです。小国スイスの強さは究極の「個の自立」にありました。

一人あたりのGDPは世界一、人口当たりのノーベル賞受賞者数の多さ、国外居住者の多さ、さらには人口の25%は移民です。出る人も、入る人も多いスイスです。

またドイツ系、フランス系、イタリア系といった、それぞれの文化の違いをいかしています。政治的あるいは民族間のトラブルも目立ったものはありません。

ネスレはドイツ系、高級腕時計はフランス系など、歴史的に移民が企業を立ち上げてきました。多くの企業で経営陣は多国籍化され、スイス人は数的にはむしろ少数派です。企業経営においても欧州全域の人的ネットワークが有効に機能しています。ネスレやABBなどがグローバルなM&Aを活用できるのは、社員一人ひとりがそれぞれ強く自立しているボトムアップ型の経営に特長のあるスイスらしいマネジメントだからといえます。

行政においても26の地方自治体制によって運営されており、安全保障と教育制度の一環としての「国民皆兵」を国是としています。これらは「国民全員が負担を受け入れられれば、一人ひとりの負担は軽くなる」という発想です。

より大きな責任を果たすために、個々人や企業がそれぞれ責任を果たすのは当然だという考え方が浸透しています。特に教育制度においては、大学よりも高等専門学校でのOJTが重視され、企業が学生の支援をします。学生は大学や専門学校に行くために兵役に参加し、これにより国家に貢献しています。国民皆兵制度で人脈や価値観、リーダーシップなどのマネジメント能力を学びます。

そもそもスイスが世界競争力No.1の理由は教育だと言われますが、キャリアパス教育を小学校から始めるなど、他国と比べても進んでいるようです。スイスの学生は勉強の目的が明確であるのに対し、それ以外の国の学生は「まずは、何でも学んでおこう」という感じです。

自立というのは結局「On」と「Off」を切り替えないことによって成り立つのではないかと思います。私は常に社員、特に20歳代の若い社員に向けて「Life is workでありWork is lifeだ」と伝えていますが、これは最近の「work & life balance」重視の風潮が心配だからです。

仕事が「On」でプライベートは「Off」と単純に切り分けてしまうと、Offで発想したことをOnにいかせませんし、Onで磨いたこともOffでいかせないと思うのです。

人生や日々の生活において、すべてはつながっています。仕事上で学んだことを育児や趣味にも応用できますし、お子さんたちと遊んでいる間に発見したことが仕事の課題解決につながることもあると思います。くり返しますが、すべてはつながっているのです。

仕事もプライベートも、個人と組織も、企業と社会も、個人と国家も。

個々人の性格がそれぞれの運命を決めるといわれるように、個々人の性格が組織の性格となり、国家の性格となります。それぞれの国民にそれぞれの性格といえるものがあり、それは価値観やDNAと深く結びついていて、変化させていくためにはやはり教育というものが原点だなあというのが、スイスを訪れた際に改めて腑(ふ)に落ちました。

4月に異動などで環境が大きく変わった方も多いと思います。環境が変わったタイミングは「On」と「Off」をつなげて「自立」を決意するのに最適です。ぜひ自己観照の機会にして欲しいと思います。