「服が売れない」と嘆く声を聞くことの多い日本のファッション業界。数年前、ファストファッションは全盛期を迎え、日本におけるファッション業界の中心にいた。その当時、90年代以降に百貨店やブティックで販路を拡大させてきた日本のドメスティックブランドは衰退を迎え、日本のファッションビジネスは終わりを迎えたとメガティブな専門家は口を揃えた。

 

しかし、2020年という新時代を迎えるにあたりドメスティックファッションブランドは独自性と個性を持つことで、必然とも思える生き残りと繁栄を迎えている。つまり、”日本のアパレル産業が衰退している”と簡単にまとめることはできないのが現状だ。

 

先日、一つのニュースがファッション業界を賑わせた。ファストファッションの代表格であった「フォーエバー 21(FOREVER 21)」の日本法人である合同会社FOREVER21 JAPAN RETAILが、10月末日をもって日本事業を終了し、撤退すると発表した。

フォーエバー 21は2009年春に日本上陸し、1号店を原宿にオープンさせた。2010年4月にはアジア初の旗艦店を松坂屋銀座店に出店し、新宿にも大型店舗を構えるなど事業規模を店舗の拡充と共に拡大させてきたが、今月に入ってからはアメリカ本国で破産法の適用申請に向けて準備を進めていると報じられ、ブランド全体の経営難が指摘されている。日本においてはは10月末日までに国内の全14店舗を閉店し、ECサイトについても閉鎖する予定だ。

 

アパレル産業が暗闇に包まれていると考えられている一方で、世界という指標でアパレル産業を見た時には明るい兆しが見られる。

 

今回は”世界”を切り口にアパレル産業を見てみたいと思う。

 

未だ成長市場といて捕らえられているファッションビジネス

アメリカでは百貨店やショッピングモールの閉鎖が相次ぎ、小売業の崩壊が叫ばれるている。日本でも同様にアパレル業界は苦戦を強いられている。

 

しかし、世界的に見ればアパレル産業・ファッションビジネスは依然、成長産業だ。

ヨーロッパ最大の経営戦略コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの報告書によると、2015年に1兆3060億ドル(約146兆円)だったアパレル産業全体の市場規模は、2025年には2兆7130億ドル(約300兆円)に倍増すると報告がある。その成長率は年平均3.6%、物価変動を加味した名目ベースでは7.6%とも言われているのだ。

 

注目すべき3つの勝ちパターン

「現実は厳しい。」

アパレル産業が成長の兆しが見える産業とはいえ、そこには明らかな勝者と敗者が存在するのだ。世界というグローバルな視点における勝者に共通するパターンとは何か。ローランド・ベルガー社では次の3つに分類をしている。

 

高付加価値型

ストーリーやクリエーティビティをベースとした付加価値「ブランド」を創り上げること。カテゴリーの拡大(ライフスタイルと結びつける)によるブランド力と収益性の両立がポイント。ファッションアイテムだけでなく、ライフスタイルに関連したブランディングがポイントとなる。

 

グローバルSPA型

SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:製造小売)は、企画から製造、小売りまでを一貫して行うビジネスモデルのことを指す。消費者の嗜好の移り変わりを迅速に製品に反映させ、在庫のコントロールが行いやすいなどのメリットがあるのがSPAというビジネスだ。世界的にみると業界内で最も成長の著しいタイプだが、参入の増加により、勝ち負けがはっきりしているというデメリットもある。

 

カテゴリーキラー型

スポーツ、アウトドアといった「領域」や、スーツ、靴、かばんといった「アイテム別」など、特定のカテゴリーに特化することで安定的な事業運営と収益性の向上を図る。ただし、成熟した昨今の業界において、ほとんどのカテゴリーで定番ブランドができあがっており、ニッチ戦略のみでの成長は難しくなってきている。

 

海外(世界)を意識することこそが鍵

人口減少を背景とした国内市場の縮小は今に始まったことではない。そして、それはアパレル業界に限ったことではない。だが、アパレル産業の不況が叫ばれても、「自動車業界の不況」が叫ばれることはない。ローランド・ベルガー社の報告書によると、そこに問題の本質があると指摘されている。

 

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「トヨタ、日産、ホンダ等の日本の自動車メーカーは、1990年代以来、基本的に増収を続けてきた。国内市場が厳しくなる中でなぜ増収できたかというと、言うまでもなくグローバル展開を進めてきたからだ。国内市場がいずれ頭打ちになることは、10年以上も前から誰しも分かっており、世の中のBtoC事業者の多くが成長機会のある海外市場を目指してきた。一方、国内アパレル業界は旧態依然としたまま国内市場にしがみつき、グローバル化が最も遅れている業界になってしまった。」

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では、今後国内のアパレル企業はどうすれば現状を打破できるのだろうか。

国内企業がこれまで依拠してきた中間価格帯のトレンドマーケットでは、市場の縮小と、消費者の価値観の多様化に伴うトレンドの小粒化・短サイクル化が同時に進んでおり、国内のトレンドマーケットのみで大きな売り上げを作ることは困難になることが予想される。総合系アパレルやセレクトショップは苦戦を強いられることが予想される。

一方で、個性あるデザイナーズブランドやストリートブランドには、これまで以上に成長の可能性があるのではないだろうか。

多様化する消費者を捉えることができる中小のブランドやショップ、小ロット生産を行うブランドにとっては実はチャンスが多い競争環境とも言える。長期的な考え方に基づく事業運営となるため、ブランドの大衆化には向かないかもしれないが、企業の理念や姿勢を支持する消費者セグメントが増加する中では、これからの時代のアパレル企業・ファッションブランドの1つの考え方になるだろう。併せて、デジタル(インターネット)の活用は欠かせない。

 

小さなニーズや細かく細分化された顧客ニーズに柔軟に対応し、独自の世界観を表現することでお客様の心を掴むことができるのではないだろうか。また、外貨の獲得も必須となる。海外からの訪日観光客への販売強化は今後の最重要事項になるのではないだろうか。