店舗のあり方が変わってきている。従来のファッションを中心とした小売店は「売り買い」の場ではなく、「体験」の場所に変化してきている。

これまでは”店舗=販売の場”であったはずが、顧客体験を高める場になろうと変化しているのです。そうした中、小売業の間で注目を集めているのが「体験型店舗」という考え方だ。特にミレニアル世代に受け入れられているこの取り組み。しかしながら、店舗を構える以上、現場で働くスタッフは必須である。そして、その体験を昇華した先には販売がセットだ。

 

体験型店舗における接客とはどのようなものなのだろうか。

あえて売らない「体験型店舗」とは

欲しい商品が翌日に届く、今まで以上に利便性が高まったECサイトの拡大や、SNSを通じた顧客コミュニケーションの発達により、今リアル店舗は厳しい淘汰の時代に突入し、その存在価値が問われ始めている。そのような中で、小売店舗の未来形と言われているのが「体験型店舗」だ。体験型店舗とは、リアル店舗最大の優位点とされている”実際に商品を触って試せる”機能をより強化したもので、特に何事においても「体験」や「経験」を重視するミレニアル世代から強い支持を受けています。ちなみに、体験を重視する購買体験の中でも、特にエンターテインメント要素を強く押し出したものは「リテールテイメント」と呼ばれており、海外ではすでに定着してきている。今後、日本でも大きなブームを起こしていくと言われている。

 

新たな価値創造を求められる実店舗の役割

リアル店舗の役割が見直されている理由の1つに、消費者の利便性において、ECサイトがリアル店舗を大きく上回ってきたということが考えられる。圧倒的な品揃えや、欲しい商品をすぐに探し出せる利便性、商品レビューや商品比較の豊富さが理由だろう。そして、もう1つの理由が、消費者が商品やサービスの価格や機能など、物理的な価値観だけでは満足できなくなってきているということが考えられる。購入に至る顧客体験の向上が不可欠になってきている。顧客体験の向上はリアル店舗だけでなく、ECサイトにも同様に求められてる。

 

顧客体験を向上させる店舗づくりとして注目を集めているのが「OMO(Online Merges with Offline)」という考え方だ。

OMOは直訳すると「オンラインとオフラインの融合」という意味。従来はオンライン(ECサイト)とオフライン(リアル店舗)を異なるチャネルとして分けるのが一般的だったが、OMOでは顧客がチャネルの違いを意識せずにサービスを受けることを可能にするという考え方だ。

OMOの手法の一つである「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」は、ユーザーがECサイトで購入した商品をリアル店舗で受け取れるようにするもので、昨今、ユニクロをはじめとする多くのアパレル企業が活用してきている。ユーザー側のメリットとして、送料負担がなく自分の好きなタイミングで商品を受け取れる、商品検索や決済がオンラインで行えるため買い物が今まで以上にスムーズになる。商品受け取り時に実物を確認でき、その場で返品可能な点も大きなメリットと言えるだろう。店舗側のメリットは他のEC事業者との差別化が図れると共に、顧客満足度の向上につながり物流コストも削減できる。それとは逆のパターンも存在しており、リアル店舗で販売スタッフに接客を受け、商品をじっくり体験・検討した後、手元のスマートフォンから購入して自宅に配送するといった方法も存在する。

両者に共通するのは、リアル店舗とECサイトで在庫の取り扱いが異なるなどといったチャネルの都合ではなく、顧客満足度の最大化を何より大切にしていることだ。そうした枠組みの中で、リアル店舗に求められる顧客体験の向上を具現化したものが「体験型店舗」なのだ。

消費行動のトリガーとなるのは「体験」

体験型店舗を作り上げるには、ミレニアル世代とZ世代と呼ばれる若者達の価値観を知らなければならないだろう。

ミレニアル世代とは、2000年以降に成人を迎えた1980年〜1995年頃生まれの世代。現年齢では26〜41歳の層を示す。特徴としては、成長過程にインターネットが飛躍的に普及したことや、時代の急激な変化を体感していたこともあり、高い情報リテラシーを備えた世代と言われている。その消費行動としてはその後のZ世代よりも「体験」を重視していることが意外にも特徴的だ。より良い「体験」を得るためには出費を惜しまない世代とも言われている。

その後の世代であるZ世代は、1996年〜2015年頃に生まれた世代を示す。生まれた時からインターネットが身近にある、いわゆる「デジタルネイティブ」な世代と言える。彼らもミレニアル世代同様、「モノ」よりも「コト」つまり「体験」を重視する傾向が強いのが、物心ついてからずっと不況が続いていることもあり、消費行動についてはやや現実的かつ慎重。「体験」と同じくらい「コストパフォーマンス」を重視する傾向があると言われている。

 

より良い「体験」を提供する接客

体験型店舗が好まれる現代において、決して接客が必要でないということはない。今までとは少し違った接客が求められるということだろう。

従来の接客は、「販売」をどれだけ積み重ねることができるかどうかが重要だったが、より良い体験を提供するというのが新たなスタイルだとするならば「また来店したい

」「ブランドやショップを好きになってもらう」が重要だろう。そして、その先に売上があるとするならば、一個人の販売量だけで販売の良し悪しを判断するのではなく、店舗全体やブランド全体の売上にプラスとなったかどうかで判断する必要があると言える。一度の接客による売上以上に、中長期間での合計を重視する必要があるだろう。

今、販売接客におけるプライオリティの変化が求められる。