「2000年以降、若者がファッションを牽引してきた。」

“ストリートブランド”なるドメスティックブランドが若者から生み出され、それらは世代を超えて多くの日本のファッション好きを虜にした。その独創性が、80年代〜90年代に一世風靡した画一的なファッションスタイルに反旗を翻した。

ハマトラやプレッピーといった社会現象とも言える、画一的なファッションの消費は、若者の台頭により、より混沌としたファッションカルチャーへと変貌を遂げていったのだ。

「今の日本には多くのファッションブランドが溢れている。」

その言葉は、街中を歩き周りを見渡せば、すぐに理解できるだろう。それは、ショップが目に入るのはもちろんだが、それを身につけている人を見てもそうだろう。

ファストファッションブランドから、ドメスティックブランド、ファクトリーブランド、ラグジュアリーブランドと実に多くのファッションブランドが存在する。そして、それらを好みに合わせてチョイスしコーディネートを楽しんでいる。つまりは、選択の自由による消費者による取捨選択が容易になったとも言えるだろう。

 

− 今の若者のファッショントレンドはどんなものだろうか?

新世代として新たなファッションカルチャーを独創的に躍進させてきた2000年代初頭とは、やや違った景色に見える。今の若者達は、集団的まとまりを形成してファッションを画一化させてはいないだろうか。

それを象徴するのが、その年齢のお財布事情と似合わぬ高額品=ラグジュアリーブランドの製品で全身を固めた若者達だ。明らかに学生だろうと思える若者でも、全身の総額が100万円以上はするだろうと思えるコーディネートを楽しんでいる。

問題はそのお財布事情ではない。なぜ若者達がそれを追い求めるのかだ。


 

今回は、そんな現代日本における若者達のファッションの一部にスポットを当ててみたい。

 

ストリートファッションの台頭

若者だけの特権と思われていたストリートファッションも、今の日本では老若男女問わず楽しめるファッションスタイルとなっている。それは、ストリートファッション創成期に10代・20代だった若者が年齢を重ねたという事実もあるだろう。

 

ほんの20年前、30代の男性はジャケットにローファーといったカジュアルトラッドを愛好していた。もちろん、今でもジャケットをオシャレに着こなし、爽やかな印象を与える小綺麗なファッションは健在だ。カーディガンにボーダーカットソーといったフレンチカジュアルも同様だ。

しかし、テレビで見かける著名人やアーティスト達は、オーバーサイズのトップスにタイトなパンツ、ハイテクスニーカーにキャップといったストリートファッションを楽しんでいる。それを支持する同年代も、またそうだろう。

 

そもそも、ファッションというものを年齢や年代で語り、イデオロギーの枠にはめてしまうのは少々お門違いではあるが、都心部では、そんなファッションに対して特別な偏見を持たずに、受け入れている傾向が強い。むしろ、好意的と言っても過言ではない。

 

その理由に、ストリートブランドやスニーカーに対する視線がそうだ。

90年代よりストリートシーン、特にスケートボーダーを中心に爆発的人気となった『supreme』は信じられないほどの躍進を続けている。新商品の発売日の3日前から店前に長蛇の列ができる。発売された商品のほとんどが即日完売となり、信じられないほどの高額となって、フリマサイトやオークションサイトで売り買いされる。

 

そして、スニーカーもまたそうだ。

NIKEやadidasといった人気スニーカーブランドから、過去のリバイバルスニーカーやブランドコラボレーションスニーカーなどが発売されるともなれば、supreme同様に数日前からショップには長蛇の列ができる。そして、かなりの高額なプレミアム価格で売買されるのだ。

 

言うまでもなく、2000年代初頭に若者達が熱狂した、型にハマらないストリートファッションが再熱しているのだ。

 

ストリートブランドの躍進とラグジュアリーブランドの変貌

前述のsupremeにあるように、ストリートブランドの躍進によって「価格」という意味合いではラグジュアリーブランドと肩を並べるようになった。もはや、ファッションのトレンドはストリートへ向かっていたのだ。今では、ランウェイをストリートファッションに身を包んだランウェイモデルが歩くほどだ。

 

一方で、「ビックシルエット」や「プリントデザイン」、「スポーツ」といったキーワードに代表されるアイテムは、元来ストリートファッションの象徴的なものだった。しかし、BALENCIAGAやGUCCI、Louis Vuittonなどが印象的なプリントデザインをデザインしたアイテムを発表し、スポーツテイストをミックスしたアイテムをも発表している。もはや、オートクチュールやフォーマル、ドレスといった元来の、我々が持つブランドイメージとは違うのだ。

 

そんな、ストリートブランドの躍進とラグジュアリーファッションの変貌により生まれたのが、ラグジュアリーストリートだ。

この相反する両者を生み出したのが、人なのか物なのか事なのかは、定かではないが、ムーブメントの火付け役となった著名人達がいるのは間違いない。

 

Justin Berber(ジャスティン・ビーバー)やKanye West(カニエ・ウェスト)といったアーティストがアメリカンカジュアルベースのストリートファッションの中にラグジュアリーブランドを取り入れた。

新世代のカリスマA$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)は、従来の黒人ラッパーの、”ゴテゴテの輝くアクセ”に”上下オーバーサイズの服”、”NEW ERA(ニューエラ)のキャップ”といった、“bling bling”な定番ファッションを覆した。Rick Owens(リックオウエンス)やSaint Laurent Paris(サンローランパリ)などの高級ブランドを好み、尚且つトレンドを汲んだラグストブランドのアイテムも見事に着こなしたのだ。

 

情報化社会の作り出すファッションカルチャー

著名人が着用した服が売れたり、スタイルを真似したりするのは今も昔も変わらないが。大きな違いがあるとすると、『情報』の差ではないだろうか。

 

ファッション誌でしか得ることのできなかったファッションに関する情報が、インターネットの出現により、タイムラグなくリアルタイムで得ることができる。

より、情報の壁が取り払われた現代において、世界のファッション情報を簡単に得ることができる。そして、小さな情報がより大きく拡散することもできるようになった。

 

前述の海外の著名人が取り入れたブランドやアイテム、スタイルなどは、瞬く間に世界へ発信されていく。それは、著名人に限らず、一般人においても同様だ。

 

それに代表されるのが、「インフルエンサー」だ。

一般人(中にはプロのモデル等もいるが)の彼ら彼女らが、SNSを通じて発信する情報に、多くのユーザーが共感し、ユーザー達はブランドやアイテム、スタイルを取り入れる。

これはファッションに限られたものではなく、インフルエンサーのライフスタイルや価値観にも共感を呼び、憧れを抱くのだ。これは日本に限ったことではなく、世界中で同様ではないだろうか。

 

つまりは、著名人やインフルエンサーといった人々の”#オシャレ”に共感し、憧れるだけでなく、”#ラグジュアリー”といった非日常のライフスタイルにも共感し、憧れを抱くのだ。

 

それは、『ファッション』という枠を超えて、ラグジュアリーストリートファッションに身を包み、ハイエンドなライフスタイルが若者世代のステータスとなっているのではないだろうか。

 

ストリートへのアンチテーゼ

冒頭にもある通り、画一的なファッションに反旗を翻し、独自の個性を主張していたストリートファッション。しかし、今ではそれは多くの人が同じ価値観のもと楽しむスタイルとなっている。

 

もう一度、街中を見渡してみよう。

BALENCIAGAのキャップ、GUCCIのパーカー、adidasのトラックパンツ、BALENCIAGAのスニーカー、supreme×Louis Vuittonのアイテム、といったラグジュアリーブランドの製品でストリートファッションを楽しむ若者が多くいるのではないだろうか。

 

画一的になりつつあるストリートファッション。

元来のストリートファッションの持つパッションに、あえてアンチテーゼを唱えるかのような現代のストリートファッションこそ、これからの時代の新たなファッションカルチャーなのではないだろうか。