しばしばファッション業界でキーワードとして上がる「古着」
日本の古着屋の仕入れ先として主な場所としてはアメリカが代表的です。”古着は全てアメリカにある”と思ってしまいがちですが、実際の古着(=中古衣料品)の流通はどのようなものなのでしょうか。ファッションの現実という側面から古着の流通実態を探りたい。
欧米で不要となった衣料品が古着の中心
中古衣料品の主要な排出先としては、想像の通りアメリカとヨーロッパとなっており、古着として世に出回るアイテムのほとんどが欧米で企画されたものだ。
ヨーロッパ古着の行き着く先となっているのが、主には中東地域だ。
砂漠の中にある都会、ドバイから車で1時間足らずにあるアラブ首長国連邦(UAE)シャルジャの湾岸には古着が山のように積まれている。圧縮され、ベールと言うものに包まれ四角く整形されコンテナに詰め込まれた古着は、カラフルだが「ゴミの山」にも思える。この倉庫の古着は大半がフランスやベルギーなど欧州で持ち主に捨てられたものなのだ。古着は、主に先進国で廃品回収や寄付を通じて集められる。服自体の原価はタダ同然だが、選別されることで商品としての価値が生まれていくのだ。それらに人件費、輸送費、輸入関税、業者が得るマージンなどが上乗せされ、値段がつけられる。その後、その古着たちは第三国へと輸出され、コストを抑えるために多くは人件費が安い別の国に輸出され、仕分けをへて次の市場に向かうのだ。
作って捨てるファッションサイクル
昨年、ヨーロッパではファッションにまつわる新たな法律が制定され話題となった。
欧州議会とEU加盟国は2023年12月5日、売れ残った衣料品の廃棄を禁止し、廃棄物を削減するための新たな法律を発表した。ファッション業界では、売れ残った商品を焼却処分や埋立処分するのが通例だった。しかし、これは「コストを抑えた格安の商品を大量につくり、売れ残れば廃棄する」サイクルを助長してきたとされ、それでは大量生産・大量廃棄のスタイルは変わることがないというフェアトレードやSDGsという概念から採用されたものだ。
しかし、新しいデザインの衣類を次々と低価格で売るファストファッションの拡大により先進国では、かつてない大量の服が供給され捨てられている。古着もグローバルに流通し、その量は今世紀に入って急増しているのが現状で、国連の貿易統計によると世界の古着輸出量は2016年、437万トン、金額にして約4000億円に達した。
シャルジャの自由貿易地域のとある会社の倉庫には毎月、コンテナ20本分、約480トンの古着が運び込まれる。あらゆる種類の衣類や布製品が交じったベール(梱包)を開けると、男性用シャツ、女性用ジャケットといった具合に、約70種類ほどに衣料品を分類し、必要に応じてさらに細分化する。これらは全て人の手によって仕分けられている。
その古着の塊の多くはボロ布同然のものだが、その中に希少なビンテージ品も交じり合っている。それらを見極めの方法は古着の知識と経験だけなのだ。
近年、世界で最も古着を輸入している国はパキスタンが中心となっている。だが、他にもマレーシアやUAEが「仕分け国」として知られている。自由貿易地域の優遇策や交通アクセスのよさに加え、世界から集まる豊富な低賃金労働力を保有する国に仕分け倉庫が集積する。それがそれらの流通量の理由の一つだ。
古着を求めて多くの企業が国を超える
2014年、シャルジャに古着の仕分け拠点を持ち、世界60カ国以上で古着回収をしているドイツのアイコレクト社が日本に進出した。日本法人が提携するのが、ファストファッションの代表ブランド「H&M」や日本全国に店舗を展開するカジュアル衣料の「ライトオン」だ。両チェーンは全店舗で、自社商品に使えるクーポンと引き換えに他社製を含めた古着の引き取りを始めた。これをアイコレクトが回収し、UAEに運び込みそこで仕分けを行う。その中の6割は古着として再輸出され、衣料として売れる見込みのない残りの衣料品は工業用途などにまわされる。
90年代以降、アメカジを中心とした古着屋が日本全国へ広がった。その勢いは一時期停滞していたが、2020年以降国内需要も更に上向いている。そのきっかけの一つはフリーマーケットサービス「メルカリ」の登場だろう。今となれば、若者にとって中古品の売買は当たり前となり古着屋リユース品への抵抗感は少なくなった。そのトレンドに乗り、大手アパレルのワールドは人気の古着専門店「ラグタグ」を傘下に収めた。
2016年の国連統計によると、世界最大の輸出国は約18%を占める米国で、ドイツ、英国が続く。日本はというと、実は2006年まで金額ベースでは世界トップ級の輸入大国だった。古いジーンズ1本に数十万円の値がついた「ビンテージブーム」の時期と重なる。ところが2007年からは輸入額は急減し、逆に輸出を大きく伸ばすようになった。重量でみると、世界の輸出に占めるシェアは2016年でまだ5%ほどだが、この20年で実に4倍になった。
アフリカから見る古着の存在
ケニアの首都ナイロビのギコンバ市場には、無数の古着業者が存在している。世界で最も多くの古着が最終的にたどり着くのがアフリカ大陸だというのは、日本人にはそこまで知られてないだろう。そのなかでもケニアは最大級の市場とされ。中心地からほど近いモンバサ港に着いた古着のベールは、陸路でギコンバ市場に運ばれ、卸売りや仲買を通して、ナイロビのビジネス街から地方の村まで隅々に行き渡る。米国際開発庁の調査では、ケニアでは67%の人が古着を買ったことがあるといい、低所得層だけでなく、幅広い層に愛用されている。市場には、古着をスチームアイロンで伸ばす職人や、ほころびの修繕や仕立て直しなどの縫い物をする職人などがそこかしこにいる。古着が大きな雇用と経済を生んでいるのだ。
日本の古着市場
古着業界においては日本は最大のマーケット規模を有していると言えるだろう。90年代以降、原宿を中心に日本全国に古着屋ができていった。その多くは、ヨーロッパとアメリカの古着を取り扱っており、ドメスティックブランドに比べ価格も安く、他者と同じ物を着ることが無いなどの理由でファッション産業の一端となった。
日本人バイヤーの多くは、アメリカへ買付に行き、アメリカ製の古着をバイイングする。アメリカから運ばれた古着は国内で買付時の価格の数十倍の価格となって流通される。昨今ではLevi’s社のジーンズがムーブメントとなり、501が中心となってファッション業界を賑わせている。古い個体では1000万円ほどの値をつけることもあり、そこまで古くない90年代製のものでも1万円を超える製品がほとんどだ。はたまた、ヴィンテージTシャツの存在感も際立つ。
日本の古着屋にアメリカ人バイヤーが訪れ、数百万円分の古着を買い付け、アメリカへ逆輸入されるケースも増えてきた。デニムはもちろんだが、ヴィンテージTシャツがニューヨークやロサンゼルスで日本での価格の数倍となって販売されるのだ。インフレと円安の影響やアメリカの著名人やセレブリティが古着を愛用していることもあり、アメリカ国内でもアメリカ古着の需要が高まっている。
ファッション業界のキーワードでもある「古着」だが、その実態と経済の現実は、世界を飛び回ることから定かではなかった。どの「古着」も最初は古着ではなく新品の製品として扱われ、不要となったことから「古着」として扱われるようになる。ファッションとは洗練された世界の産物とも思えるが、実際には消費社会による一つの産物でしか無いのではないだろうか。